屋上防水工事|ビル・マンションの基礎知識
「ビルやマンションの屋上防水工事って、一体どんなことをするんだろう?」、「いつ、どのくらいの費用で工事をすればいいの?」といった疑問をお持ちではありませんか? 本記事では、ビル・マンションの屋上防水工事に関する基礎知識を解説します。屋上防水工事が必要な理由、代表的な工法の種類と特徴、さらに、工期やコスト、周辺環境への影響まで詳しく解説します。防水層の種類や選び方についても詳しく解説しているので、屋上防水工事の計画を立てる際の参考にしてください。この記事を読めば、ビルやマンションの寿命を左右する屋上防水工事について、理解を深め、適切な工法を選択できるようになるでしょう。
ビル・マンションの屋上防水工事が必要な理由
ビルやマンションの屋上は、戸建て住宅のように勾配屋根の傾斜がありません。目に見えない程度の傾斜は設けられていますが、勾配屋根ほどの排水能力はありません。そのため、雨水が滞留しやすい構造となっています。
雨水が屋上に溜まると、建物の劣化が加速し、防水工事が必要になります。屋上の防水が不十分な場合、階下の部屋への雨漏りだけでなく、雨水が建物の構造部まで浸透するリスクがあります。
鉄筋コンクリート製のビルやマンションは、鉄筋がコンクリートで覆われているため、雨水による腐食は起こりにくいと思われがちです。しかし、コンクリートにはひび割れが発生しやすいという性質があります。
ひび割れの原因の一つとして、雨水が蒸発する際に起こる乾燥収縮が挙げられます。また、コンクリートの中性化も要因の一つです。空気中の炭酸ガスがコンクリートの成分である二酸化カルシウムと反応し、中性化を促進します。この中性化が進行すると、鉄筋を錆から守っていたアルカリ性の環境が失われ、鉄筋が錆びて膨張し、内部からのひび割れが発生する可能性があります。
これらの原因によって発生したひび割れや継ぎ目から、適切な防水工事が施されていない場合、雨水が浸透してしまいます。雨水が浸透すると鉄骨が錆び、錆が膨張して新たなひび割れを引き起こし、さらに雨水が浸透するという悪循環に陥ります。最悪の場合、建物の耐震性に悪影響を与える可能性もあります。
防水工事の種類によって耐用年数は異なるため、新築時の防水工事の種類を確認することが重要です。屋上のコンクリートの状態や建物の構造を考慮し、適切な時期に防水層を改修することは、建物を長持ちさせるために不可欠です。
屋上防水工事の工法の種類と特徴
防水工事は、建物の寿命を大きく左右する重要な工程です。防水工事の種類は多岐にわたり、それぞれに特徴、工期、費用、耐久性、周辺環境への影響などが異なります。
代表的な屋上防水工法
屋上防水工事には、大きく分けて2つの工法があります。
- 重ね葺き工法
- 撤去工法
重ね葺き工法には、さらに『再生工法』と『機械的固定工法』の2種類があります。防水工事には、それぞれ耐用年数が異なる複数の材料が使われます。そのため、工事の工法を決定した後に、適切な材料を選択することが重要です。
かぶせ(再生)工法
防水層の劣化が進行している箇所に対し、下地処理を施してから新たな防水層を施工することで、防水性能を回復させる工法です。
機械的固定工法
既存の防水層に穴を開け、ゴムや塩化ビニルシートをビスやアンカーで固定する、重ね貼り方式の防水工法です。この工法は、既存の防水層をそのまま残した状態で新しい防水層を形成できるため、既存建物の改修工事などに適しています。既存の防水層の下部に新しい防水層を設けるため、既存の防水層が劣化しても、その上に重ねて施工することで防水性能を維持することができます。
撤去工法
既存の防水層を完全に取り除き、建物が新築された当時の状態に戻してから、新しい防水層を施工する工法です。この方法は、既存の防水層に劣化や損傷が見られる場合に有効です。既存の防水層を完全に取り除くことで、新たな防水層の施工をより確実に行うことができます。
工法別の特徴を比較
それぞれの工法は、耐久性、費用、施工期間という重要な3つの点で特徴が異なります。これらの要素を比較検討することで、それぞれの工法の長所と短所を把握し、自身のニーズに最適な選択をすることが可能になります。
- 耐久性
- 費用
- 施工期間
それぞれの工法の特性を理解し、比較検討することで、最適な工法を選択できるでしょう。
工期
従来の撤去工法は、既存の舗装を完全に撤去する必要があるため、工期が長期化しやすいという課題がありました。しかし、近年では、かぶせ工法や機械的固定工法など、撤去作業を最小限に抑えることができる工法が普及しつつあります。
かぶせ工法は、既存の舗装の上に新しい舗装を重ねる工法です。撤去する範囲が少なく、工期短縮に繋がります。また、機械的固定工法は、特殊な機械を用いて舗装を固定するため、下地処理が簡略化され、工期短縮が期待できます。
- かぶせ工法:既存の舗装の上に新しい舗装を重ねるため、撤去作業が少なく、工期短縮に繋がります。
- 機械的固定工法:特殊な機械を用いて舗装を固定するため、下地処理が簡略化され、工期短縮が期待できます。
このように、撤去工法以外の工法を採用することで、工期短縮を実現できるケースが多く見られます。
コスト
撤去工法は、防水工事前に既存の防水層を撤去する作業が必要となるため、かぶせ工法と比べて費用がかかります。これは、撤去作業と廃材処分に費用が発生するためです。一方、機械的固定工法は、下地処理を簡略化できるため、コスト削減が期待できます。
周辺環境への影響
防水層の撤去を伴う工法では、雨による漏水の危険性が高まります。これは、防水層を一時的に撤去するため、雨水が建物内部に侵入する可能性があるからです。一方、既存の防水層の上に新たな防水層を重ねる「かぶせ工法」では、既存の防水層が雨水から建物を保護するため、漏水の発生リスクを低減できます。
騒音・振動
既存の屋根材の上に重ねて新しい屋根材を取り付けるかぶせ工法は、従来の屋根材を撤去する撤去工法と比べて、工期が短縮できるメリットがあります。これは、かぶせ工法では既存の屋根材を撤去する作業が不要なため、騒音や振動が発生する時間が短く、工事を迅速に完了できるからです。一方、撤去工法では、既存の屋根材を撤去する際に、騒音と振動が断続的に発生するため、周辺住民への影響が大きくなる可能性があります。
総合的な比較
防水層の劣化が著しい場合、既存の防水層を完全に撤去し、新たに防水層を施工する撤去工法が唯一の選択肢となるケースもございます。一方、かぶせ工法は既存の防水層の上に新たな防水層を重ねる工法であり、多くの利点があります。
撤去工法
既存の防水層をすべて取り除き、建物が新築された状態の下地の上に、新たに防水層を施工する工法です。既存の防水層を完全に撤去することで、劣化や損傷による防水性能の低下を防ぎ、より確実な防水を実現します。また、新築時の下地に施工することで、下地との密着性を高め、防水層の耐久性を向上させます。この工法は、既存の防水層に問題がある場合や、より高い防水性能を求める場合に最適です。
かぶせ(再生)工法
建物の防水層は、経年劣化によって機能が低下し、雨水の侵入を許してしまうことがあります。このような状況下では、防水層を再生させることが重要となります。防水層の再生工法は、劣化してしまった防水層を完全に取り除き、下地を適切に処理した上で、新しい防水層を施工することで、建物の防水性能を回復させる工法です。
防水層の再生は、建物の寿命を延ばし、雨漏りなどのトラブルを防ぐために有効な手段です。適切な工法を選択し、専門業者に依頼することで、安心して防水層を再生することができます。
機械的固定方法
建物の防水層は、経年劣化や外的要因によって状態が悪化する可能性があります。防水層が劣化すると、雨水や湿気が建物内部に侵入し、躯体の腐食やカビの発生、内装の損傷など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。このような問題を未然に防ぐため、適切なタイミングで防水工事を実施することが重要です。
防水工事は、建物の耐久性を高め、快適な生活空間を維持するために欠かせないものです。しかし、防水工事には費用や工期がかかるため、いつ実施するのが最適なのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。適切な時期に防水工事を実施することで、コストや工期の削減だけでなく、建物の寿命を延ばす効果も期待できます。
防水工事の時期を決める際には、建物の築年数や現在の防水層の状態、建物の用途などを考慮する必要があります。築年数が経過している建物や、防水層に亀裂や剥がれなどの劣化が見られる場合は、早めの工事実施がおすすめです。また、建物の用途によっては、防水層の劣化が進行しやすい場合があります。例えば、屋上庭園やプールのある建物は、通常の建物よりも防水層に負荷がかかりやすいため、定期的な点検と必要に応じて早期の工事実施が重要です。
防水工事は、建物の維持管理において重要な役割を果たします。適切な時期に実施することで、コスト削減、工期短縮、建物の寿命延長などのメリットがあります。建物の状態や用途に合わせて、適切な時期に防水工事を実施することを検討しましょう。
防水層の工事の種類と特徴
建物の屋上は、雨水から建物内部を守る重要な役割を担っています。そのため、雨水が浸透しないよう、屋上に施工される層を防水層と呼びます。防水層の施工方法には、大きく分けて3つの種類があります。塗る、張る、そして塗る+貼るという複合的な方法です。それぞれに特徴があり、工事の種類や建物の構造、さらには予算や工期によって最適な施工方法が異なります。例えば、作業のしやすさや耐久年数は、採用する施工方法によって大きく変わってきます。
塗膜防水
液状のウレタン樹脂を塗布することで化学反応を起こし、防水膜を形成する施工方法です。
利点
- 屋上にある転落防止用のフェンスがあっても、隅々まで塗布することが可能です。
- 継ぎ目のない均一な仕上がりを実現できます。
欠点
- 施工者の技術力によって「塗膜の厚み」が異なるため、仕上がりにばらつきが生じる可能性があります。
- 耐久年数が異なる可能性があります。
アスファルト防水・熱工法
アスファルト防水は、液状の溶融アスファルトとアスファルトシートを複数層重ねることで、優れた防水性と水密性を備えた厚みのある防水層を形成する工法です。この工法は、施工後の不具合発生リスクを抑えられるというメリットがあります。改修工事においては、建物の利用を継続しながら作業を進められる常温粘着工法(冷工法)や、トーチを用いたトーチ工法などの施工方法が採用されます。
シート防水
改修工事において、ゴムや塩化ビニル製のシートを接着剤を用いて下地に貼り付ける工法は一般的な方法です。しかし、接着剤の特性や下地の状態によっては、シートの剥がれやシワが発生するリスクが伴います。そのため、適切な施工には専門的な知識と技術が不可欠です。
近年では、シートをビスや釘で固定する「機械的固定工法」が採用されるケースが増加しています。この工法は、接着剤に比べて剥がれにくく、優れた耐久性を発揮することが大きなメリットです。ただし、ビスや釘の打ち込みによって下地が傷つく可能性があり、下地の状態によっては施工が困難となる場合もある点は留意が必要です。
ビル・マンションの寿命を左右する防水工事
ビルやマンションの屋上は、適切な時期に防水工事を施すことが重要です。防水層の劣化は、建物の寿命を縮めるだけでなく、構造的な問題を引き起こす可能性も孕んでいます。適切な時期に防水工事を実施しない場合、撤去工法が必要となり、工期と費用が大幅に増加するだけでなく、構造部への劣化が進行し、鉄筋の腐食による耐震性の低下といった深刻な事態に繋がる可能性も懸念されます。
では、防水工事の適切な時期をどのように判断すれば良いのでしょうか? 建設省総合開発プロジェクト(昭和55~59年)の「建築防水の耐久性向上技術」資料によると、現在の防水層がウレタン塗膜防水の場合、前回の防水工事から約10年が耐用年数とされています。アスファルト防水押えコンクリート仕上げは約17年、アスファルト防水露出砂付き仕上げや合成高分子系シート防水は約13年が目安です。
しかし、これらの年数はあくまでも目安であり、建物の構造、気候、前回の防水工事の施工技術など、様々な要因によって実際の耐用年数は大きく異なる可能性があります。そのため、まずは屋上の防水層の状態をしっかりと確認することが重要です。劣化が認められる場合は、信頼できる業者や国家資格を持った技師に調査を依頼し、現状を把握することが不可欠です。調査結果に基づき、現在の防水層との相性を考慮した上で、最適な時期に最適な方法で防水改修工事を進めることで、建物の安全と耐久性を確保することができます。
弊社では、現状の建物調査も承っております。お気軽にご相談ください。
屋上防水工事の選び方
ビルやマンションの屋上防水工事は、建物の寿命を左右する重要な要素です。適切な工法を選択することで、建物の耐久性を高め、快適な生活空間を維持することができます。この記事では、代表的な屋上防水工法の種類や特徴を解説しました。防水工事に関するお悩みやご質問は、ぜひ関防協にご相談ください。専門スタッフが、お客様に最適なプランをご提案いたします。